東京高等裁判所 昭和54年(う)406号 判決
被告人 恩田清
〔抄 録〕
所論は、要するに、原判決は、その判示第一、三において、被告人が、堀越年男に対し、原判示日時場所において覚せい剤約七〇グラムを譲り渡した事実を認定したが、堀越は、右事実と対応する覚せい剤の譲り受け及びその他の公訴事実につき、昭和五三年八月三〇日千葉地方裁判所において懲役三年六月の判決を言い渡されているところ、右被告事件の審理・裁判をした裁判所は、本件被告事件の原審とその人的構成が全く同一であり、更に、同年七月二四日有罪判決が宣告された堀越の内妻入江つぎ子の、堀越との覚せい剤の共同所持にかかる被告事件の審理・裁判をした裁判所も、本件原審と全く同一の人的構成である。ところで、被告人は、原判示第一、三の事実については、逮捕後公判段階を通じ一貫して否定しているところ、前記経緯に照らせば、原審は、右事実につき当初から有罪であるとの予断と心証を抱いて審理に臨んだものというべきであり、憲法三七条一項、刑訴法二〇条七号及び二五六条六項の趣旨にも違反するものであるから、結局、刑訴法三七七条二号を類推適用し、適法な裁判所を構成しなかったものとして原判決を破棄すべきものである、というのである。
しかしながら、(1)右法令違反の主張については、弁護人において、刑訴法三七七条二号に規定する「その事由があることの充分な証明をすることができる旨」の保証書を添付しなければならないところ、本件については、右保証書の添付がなく、従って、同法三八六条一項二号後段により不適法な主張というべきである。その点を別にしても、(2)記録及び当審における弁護人の釈明によると、被告人及び原審弁護人(当審弁護人と同じ。)は、原審において、各担当裁判官に対し忌避の申立をせず、異議なく審理及び裁判を受けたことが明らかであるから、不公平な裁判をする虞があることを理由として原審各裁判官を忌避することができないことは、刑訴法二二条に明規するところである。それゆえ、仮りに本件が既に審判された所論の別件と同一構成員による裁判所の裁判であったとしても、原審において忌避の申立をしなかったのに、予断による不公平な裁判をする虞があるとする控訴理由は、不適法として許されないというべきである(大判昭和一二年二月六日刑集一六巻五二頁参照。)。従って、この点からも論旨は採用の限りでない。
(西村 高山 村田)